だから君に歌を
京平が店で千夏を観察し始めてから5時間後、
ようやく千夏に動きがあった。

一旦店の奥に消えたかと思うと店のエプロンを外して小さなバッグを片手に持った千夏が再び現れた。

京平は千夏に気がつかれないように千夏の後をつけた。

千夏は店を出ると早足で歩きだし、
駅へと向かった。

京平は慌てて小銭を用意し、適当に切符を買った。

人混みの中、
一瞬でも千夏から目を離したらすぐに見失ってしまう。

京平は必死に千夏の後を追い掛けた。

電車に乗り込む千夏を確認し、千夏に見つからないよう隣の車両へと乗り込む。

千夏はそんな京平に目を向けることなく、少し疲れたように扉付近の手摺りに寄り掛かって窓の外を見つめていた。

そんな千夏の姿に京平の胸が痛んだ。

昨日歌っていた時のオーラもなく、
働いている時の凜とした立ち姿とも違う。

頼りない姿だった。
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