だから君に歌を
東京に出て来て四年。

このボロアパートでの生活が。
バンド仲間と歌を作る生活が、
千夏に定着していた。

沖縄で兄と過ごした日々は、まるで寝ている間に見た幸福な夢のよう。

千夏は布団から抜け出して冷たい水で顔を洗った。

5月の気温はまだ肌寒い。

千夏は昨日会った京平の顔を頭に浮かべた。

あまり、変わっていなかった。

京平に触れられた部分に手をあてると胸が苦しくなる。

何故?

京平の必死な問い掛けがこだまする。

何故ー…

それは、
好きな気持ちを止められなくなりそうだったから。

歯止めが効かなくなる前に離れなくちゃいけないと思ったから。
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