だから君に歌を
「大丈夫かー?眠そうだな」

楽屋でうとうとしていると翔が覗きに来た。

千夏は眠たい目を精一杯開けて翔を見上げる。

「大丈夫、何?」

翔は千夏の真正面に座って珍しく満面の笑みをその顔に浮かべた。

「新しい曲の歌詞。読んだ」

「…そ」

「やればできんじゃねーかよ、お前」

どうせまた細かいところでダメだしをされるのだと思っていた千夏は驚いて一瞬息をすることを忘れた。

「はっきり言わせてもらうと、お前の書く詞にはさ、何もこもってないと思ってたんだよ。今までは。悪くないけど良くもないっつーの?」

それは今までも散々、
書くたびに翔から言われて来たことだった。

「でも今回のは最高。お前の魂の叫びが伝わってきた」

千夏にとっては私情をただぶつけたにすぎないみっともない歌詞が他人にそう伝わるだなんて思いもしなかった。
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