俺が大人になった冬
(1)女は道具

1989年1月8日。日本の元号が「昭和」から「平成」に変わったその日。

俺は生まれた。

平成になって最初の日に生まれたから「はじめ」

向井 元(はじめ)というのが俺の名前だ。

「『元』は冠をつけた人の形が文字になったもので、とても高貴な字なの。それ以外にもこの文字には『良い』『正しい』『美しい』という意味もあるし。『元』の漢字の持つ意味のように、素敵な人になってほしいと思って名付けたのよ」

母さんはそうやって、俺が小学生のときに名前の由来を話して聞かせてくれた。

どう考えても、そんな説明は後から付け加えたようにも思えたけれど、俺は母さんの言葉で『元』という名前に誇りを持てるようになった。

名前に恥じないような、人の上に立つ立派な人間になりたいと、そのときの俺は真剣にそう思っていた。


それなのに……

いつからだろう。
そんな気持ちがなくなったのは……

18歳になった今の俺は、そんな純粋な気持ちをとっくになくしてしまい、形だけは進学したものの、大学にはほとんど行かずにどうしようもない生活を送っていた。









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