俺が大人になった冬



残念ながら、夕方5時から10時までバイトになっていた。

彼女が家にいるのに、バイトなんて本当は行きたくない。ずっと彼女と過ごしていたい。

でも彼女にそれを言ったら、すげぇ怒られた。

「いらっしゃいませ!」

5時間も離れなければいけないのは悲しいけれど、彼女が家で俺の帰りを待っていてくれることを考えると、自然に顔がほころぶ。

鼻歌混じりに商品の補充をしたり、客にも無駄に笑いかけたりしてしまう。

「今日の向井くん、ご機嫌だね。なにかいいことあったの?」

いつもより明らかにテンションの高い俺に、櫻井が不思議そうに尋ねる。

櫻井のどうでもいい質問も、幸せいっぱいの今は不思議とウザく感じない。

「いや、あったというか……」

言いながら彼女のことを思い出し、馬鹿みたいに照れ笑いをしてしまう。

「さぁ~! 頑張って仕事しなきゃな!」

はじめて知った。

俺ってかなり単純。

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