俺が大人になった冬



手があくと、つい時計を見てしまう。

まだ8時。

仕事が終わるまで、あと2時間もある。

家に帰れば、彼女が待っている……はずだ。

彼女が泊まるというのは、あまりにも現実味がなさすぎて、こうやって離れていると、段々と不安になる。

あのあと結局、バイトに来るまで特に色っぽい雰囲気にもならなかったし、普通の会話だった。

泊めてほしいと言われたことは、実は夢だったり……

でも、普段なら4時ぐらいには帰ってしまうのに、今日は俺がバイトに行くのを「いってらっしゃい」と、優しく見送ってくれた。

鍵も彼女に預けてある。

ふっと俺を見送ってくれたときの彼女の笑顔を思い出し、つい口元が弛む。

「おいおい、向井。恐い顔したり、笑ったり、なに考えてんだ?」

と、横にいた店長にそう声を掛けられる。
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