俺が大人になった冬
「全然ヒマ。時間が経つのが遅くてさ。早く帰りたかった」

俺は彼女の態度に合わせるように、『男』としてではなく昼間会うときと同じように『息子』の答え方をした。

今夜、はじめて彼女を抱けると思い浮かれていた。

しかし、彼女にその気がないのなら『男』としての態度をとってはいけない……

もどかしい気持ちが、また心をチクッと刺激する。

「そう。お疲れさま」

話しながら部屋に入ると、机の上には見覚えのない卓上コンロと鍋がセッティングされていた。

「鍋?」

「お鍋って一人では食べないでしょう? しゃぶしゃぶだけれど、こういうホーローのお鍋の方が用途が広いと思って」

「鍋の材料も買ったんだろ? こんな物買うなら俺がいるときに一緒に買いに行こうって言えよ。そしたら持ってやれたじゃん」

「大丈夫。私結構力持ちなのよ」

得意気に彼女は言った。

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