俺が大人になった冬


「元くん。お野菜もいっぱい食べてね」

「野菜あんまり好きじゃねぇ」

「そんなことを言わないの」

言いながら彼女は、肉ばかり食べている俺の取り皿に強引に野菜を入れる。

「あ! なにすんだよ!」

「食べてね」

彼女と他愛もない話をしながら、頭の中は複雑な思いでいっぱいになっていた。

昼に会っているときには、全く考えなかったのに、彼女との晩メシが楽しければ楽しいほど、普段の彼女の生活を思い浮かべてしまう。

俺を待っていてくれたように、毎日旦那の帰りを待っているのか?

毎日あんなに嬉しそうに、旦那を出迎えているのか?

そんな顔で毎日旦那に笑いかけているのか?

彼女の日常は旦那の傍にある。

俺とのことは、彼女にとって『非日常』なんだ。
< 131 / 286 >

この作品をシェア

pagetop