俺が大人になった冬
「元くん? どうかした?」

彼女に声をかけられ、ハッと我に返る。

急に言葉がなくなった俺を、不思議に思っているようだ。

「春菊……嫌だ」

俺は咄嗟に取り皿に残っていた春菊を見つめて、そんなことを言ってごまかした。

「子供みたいね」

そう言って彼女は優しく笑う。


──この笑顔を俺だけに向けて欲しい。

いつも俺のことだけを見て欲しい。

できることなら、このままずっと外に出さずに俺の側に置いておきたい。

旦那の所に帰してしまうぐらいなら、いっそ彼女を壊してしまいたい──


夜は危険だ。

気持ちがとても不安定になる。

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