俺が大人になった冬
「風呂入ってきなよ」

「ありがとう。借りるわね」

彼女はそう言って微笑むと、持ってきたカバンから着替えなどを出して(泊まる準備はちゃんとして来たようだ)風呂場に向かった。

彼女が風呂に入り、ポツリと一人部屋に残った俺。

時計の秒針の音がしんとした部屋に響く。

「布団……敷くか」

一組しかない布団を敷きながら、俺は知らず知らずのうちに涙が出そうになっていた。

すぐ側に彼女はいるはずなのに。彼女の気持ちはとても遠い。


切ない。

こんな想い……知らなきゃよかった。

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