俺が大人になった冬
チラッと横目で彼女を見た。彼女は俺の視線に気付いたのか、ふっと目線を上げると

「Je suis heureux d’etre avec vous」

と、小さな声で言った。

彼女の言葉の意味は分からないが、あえて突っ込もうとは思わなかった。

彼女の仕草やわざわざフランス語を使うあたり、好意を表すような言葉である気がしたからだ。

肩を抱いたら怒るだろうか……

今まで散々女を抱いてきたのに、彼女に触れることはとても恐い。

スキンシップ程度に抱きつくことはあるけれど、肩を抱くという動作はそれとは違う『男』としての行動のような気がして思い切れない。

妙に緊張して喉が渇く。

俺は大きく息を吸い込み覚悟を決めると、左手をゆっくりと伸ばしてグッと彼女の肩を抱いた。

彼女の目線が再び俺の方に向いたのがなんとなく分かったが、気付かないフリでテレビの方を見ていた。
< 157 / 286 >

この作品をシェア

pagetop