俺が大人になった冬
「マジだよ……俺」

「……」

「すげぇ大好き」

言いながら彼女を強く抱き締める。

彼女の首筋に当たった唇を、そのままゆっくりと耳元まで這わせると、彼女の体がビクッと反応し、吐息混じりの小さな、小さな声が漏れた。

「可愛いすぎ……」

俺が耳元で囁くと、彼女は真っ赤になって俯く。

「……意地悪」

はじめて聞く彼女の声にますます抑えがきかなくなり、抱き締めた腕に力がこもる。

「やっぱ帰したくねぇ……」

「元くん」

「帰るなよ」

「そんなこと言わないで」

彼女の顔は明らかに困っていた。

困らせるつもりではなかった。ただひたすらに不安だった。
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