俺が大人になった冬
「だってさ……次に会うときは、もうこんなふうに触れられないかもしれねぇじゃん……」

「え?」

「なんか、こうしていられることが嘘みてぇつーか……あんたが帰ったら、急に夢から覚めちまうような気がしてさ……」

情けないけれど、気持ちが高ぶって涙が上がってきそうだった。

そんな俺を見て彼女は

「馬鹿ね」

と、優しく言いながら俺の髪を撫でる。

その手はそのまま俺の首筋を滑り、流れるようにカットソーの襟元をなぞりながら胸元で止まった。その動きに合わせて彼女がその手元にゆっくりと唇を寄せる。

胸元に走る小さな刺激。

思いがけない彼女の大胆な動きに、鼓動が激しさを増す。

「大好きよ。私も、とても」

その言葉で不安が薄れた俺は、ようやく彼女を見送ることができた。

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