俺が大人になった冬


「なぁゲン、今日なんか用事あんの?」

思い出したようにヒサが俺に聞いた。

「用事つーか、ちょっと家に顔出してみようかと思って」

「珍しいじゃん」

「まぁな」

昨夜、また母親からの電話が入った。彼女との約束通り電話に出ようと思ったが、いざとなると照れくさくて出ることができず、結局、母親の残したメッセージだけ聞いた。

内容は今日の俺の誕生日についてだった。

「元の好きなもの用意して待っているから、たまには帰っていらっしゃい」と。

その声に紛れて、小さい女の子の声が微かに聞こえていた。

いつもなら、帰ろうだなんて少しも思わない。けれど、今回はなんとなく帰ってみるのもいいような気になっていた。

別に母親に会いたいわけではない。ただ、実家に帰ったと報告すれば彼女がすごく喜んでくれるような気がしていたからだ。
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