俺が大人になった冬
彼女から事実を聞いた俺にできることは、本当にないのだろうかと悩んだ。

旦那の行動、言動はどう考えても尋常ではない。

しかし彼女にそれを指摘すると、彼女は

「仕方がないの。彼、本当はとても優しい人なのよ。彼がそうなってしまったのは私のせいだから」

と、そんなひどい仕打ちを何年も受けていながら旦那の肩を持つ。

この言葉はDV(ドメスティックバイオレンス)の被害者だった母親からもよく聞いた言葉だ。彼女も同じように、すっかり感覚が麻痺させられているとしか思えなかった。

うちの親の場合は目に見える暴力だっただけに、離婚調停もそれなりに進みやすかったようだけれど、彼女の場合は違う。

それは口にしてしまえば「夫婦ではよくあること」で済まされてしまうようなことかもしれないが、彼女は明らかに精神的に追い込まれている。

余計彼女を追い込んでしまうかもしれないと思いながら、やっぱり彼女をこのままにしておくことはできない。
< 219 / 286 >

この作品をシェア

pagetop