俺が大人になった冬
「あんたしか見えねぇよ」

「……」

「そんなこと……い、言うなよ……」

「……結果が出るまでは、元くんとは会えないわ」

彼女の声も、涙声に変わった。

「分かってるよ。それでも……どんだけでも、俺、待つから。あんたがなんて言ったって、待ってっから!」

「電話もできないと思うけれど……」

「それでも! 待ってるから」

「元くん……」

「あんたは「独り」じゃないからな!」

電話の向こうから、微かに彼女のすすり泣く声が聞こえてくる。

「……はい」

とても小さな、小さな声だった。

俺たちはそのまましばらくなんの言葉も発することなく、ケータイを耳に当てたままお互い声を殺すように泣いた。

電話の最後に彼女は

「私は、きっと強くなれるわ」

と、言った。その声には今までにない力強さがあった。

< 227 / 286 >

この作品をシェア

pagetop