俺が大人になった冬
「ダメかな」

もう一度俺が尋ねると、彼女は俯いて考え込むように黙っていた。彼女は明らかに迷っているようだった。

強引なことはしたくない。

彼女も俺と同じ気持ちでないのなら、そうするべきではない。

「って……そんなこと言われても困るよな」

俺の支えは彼女にとって、本当にもう必要がないのかもしれない。

俺から離れたがっているのは、彼女の気持ちがもう俺にはないからなのかもしれない。

もしかしたら、離婚するためにうまく利用されていただけなのかもしれない。と、そんな歪んだ考えが頭に浮かんだ。

彼女がそんな人間でないことは分かっている。

ダメだ。

彼女を信じられなくなりそうな気持ちを、落ち着けなければいけない。

俺はスッと立ち上がり、

「ごめん。俺、ちょっと頭冷やしてくるわ」

と、笑顔を作ってそう言い、部屋を出ようとした。が、それは背中に抱きついてきた彼女によって止められる。
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