俺が大人になった冬



車まで送らなくていいと彼女に言われ、俺たちは玄関で別れた。

別れのときは、さすがに泣いてしまうだろうと思っていた。

「空港に見送りには行かねぇからな」

「はい」

でも、泣けなかった。

彼女が笑っていたから。

彼女の笑顔が、はじめて会ったときに感じた『造り物のような』物とは違い、生き生きと輝いていたから。


「俺さ、ずっとここにいるから。こっち帰ってきたら、またおいでよ」

「来ないわ」

「え?」

「私からはもう、あなたに会いに来たり、連絡したりはしない」
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