俺が大人になった冬
今の俺ができることは、せめて彼女を笑顔で送り出すこと。

これは悲しい別れじゃない。

彼女の門出なのだから──。

「もう、行くわね」

「おぅ。元気でな」

言いながら、どちらからとも言わず俺たちは抱き合い、軽いキスをした。

「A bientôt」

「なに?」

「フランス語で『さようなら』っていう意味なの」

彼女の口から出た「さよなら」は、笑顔を保とうとする俺の心を大きく乱す。
< 262 / 286 >

この作品をシェア

pagetop