俺が大人になった冬
「元くん。着いたわよ」
不覚にも俺は途中から寝ていたらしく、女に起こされて目が覚めた。
「あ、寝てたんだ、俺……ごめん」
まさかよだれを垂らしたりしなかっただろうな!? カッコ悪(わり)ぃ。
寝ぼけた目を擦りながら窓の外を見ると、目の前に海が広がっていた。
「海?」
車を降りると、海独特の潮の匂いが鼻を刺激した。
潮風を体に受けながら、俺は両手を上に伸ばしグッと一つ大きな伸びをする。
「あ~! 気持ちいいな~!」
海なんて何年ぶりなのだろう。
久々の海でテンションが上がる。
「冬の海って、海の家とかないんだ……って当たり前か」
俺は独り言のようにポツリと呟いた。
はじめて来た冬の海は、店や人でごった返す夏とは違い、店もなくガランとしていて、曇り気味の空の雰囲気も手伝って少し淋しい感じがした。