俺が大人になった冬
突然の俺の言葉に、エリナの表情が一気に曇る。

「どうして?」

「……」

「あ、ちょっと少なかった? だったら……」

「違う」

「じゃあ、なに?」

「気になる人がいる……」

「そんなの気にしなくていいわ。私にだって主人がいるじゃない」

俺から別れを切り出されたことを認めたくないのか、エリナは笑いながら全く気にしないといった様子でそう言った。

「もう無理」

俺が今まで付き合ってきた人妻は、皆プライドが高い。今までの女との別れもあっさりしていた。おそらく自分が捨てられると思いたくないからだ。

エリナもきっとそのパターンに違いない。と、思っていた。しかし、いきなりエリナは俺の背中に強く抱きついてきて

「そんなの嫌! ゴウくんに会えなくなるなんて!」

と、涙声ですがりついてきた。予想外の展開だ。

エリナのことは嫌いじゃなかった。セックスの相性もよかった。

でも、他の女と同じで『愛情』を感じたことは今まで一度もない。
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