俺が大人になった冬
(6)彼女の傷
今日も彼女との電話は繋がらない。
「ただいま電話に出ることができません」
アナウンスの声が冷たく響く。
昨日までは「年末だし忙しいのかもしれない」とか、「旦那が長期休暇なのかもしれない」と都合のいい解釈をしていた。
避けられているという事実を認めていなかった。
「20秒以内でご用件を録音下さい」
気持ちが落ち込み、電話を切ることもできない。留守番電話の発信音がピーッという音をたてる。
「あ…向井です……」
留守電には、彼女の立場を悪くするようなメッセージは入れないようにしてきた。万が一、旦那に聞かれたときに疑われないよう、いつも事務的な口調で決まり文句のみを残した。
でも今日はそれができそうもない……