俺が大人になった冬
「スネてなんかねぇよ!」

俺がムスッとした顔をすると、彼女はふふっとイタズラっぽく笑って俺の頬を両手で包み込み、ふくれた頬を軽くつぶす。はずみで口からポコッと間抜けな音を立てて空気が漏れる。

「カワイイ」

すぐ目の前にあるとても楽しそうな彼女の笑顔。

頬に触れる彼女の手。

胸が大きく高鳴り始める。

俺は頬に置かれたままの彼女の両手を両方の手で握り、ゆっくりと俺の頬から引き離し

「馬鹿…ふざけんなよ……」

呟くようにそう言って、目線を下に向けた。

「ん?」

俯いたままポツリと漏らした言葉が聞き取れなかったのか、彼女は不思議そうな顔で俺を見る。

「なんでもねぇよ」

暴走しそうな気持ちをグッとこらえるように、彼女に抱きついてみた。
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