短編・ショートショートなど。
「ええ。2階にある妹の部屋の中からなんですが……衣擦れするような、バタバタと走り回っているような、階段を駆け上がっているような……そのような物音が夜な夜な聞こえてくるのです」

俯きながら、事情を説明し始めた。

「私は独りで住んでいるので、最初は泥棒でも入り込んできたのではないかとも思ったのですが、中を覗いても誰もいなくて……。
しかし次の日も、その次の日の夜にも、同じ物音が聞こえてくるのです」

少し身震いをする。

男はその間表情のない顔で、肘掛けに肘をかけながらこちらを見据えると、静かに話を聞いていた。

「私と妹は両親の他界後、二人で助け合って生きてきました。
高校生の妹とは年が離れていて、私にとっては自分の子供みたいなものでしたし。
誕生日には恋人と過ごすよりも、互いにケーキを買い合って一緒に祝うのが毎年恒例だったのです。あの日も妹は私のために、予約していたケーキ屋さんへ品物を取りに行くと言って…」

言葉に詰まり、しばらく沈黙が続いた。

所長も私を見詰めたまま、こちらが落ち着きを取り戻すまで待っていてくれた。

「それが起こり始めたのは、妹が死んで2〜3日程経ってからのことなのです。
妹は生前、私が婚期を逃したのは自分のせいだと言って、頻りに心配していました。自分を進学させるために、ずっと休みなく働いていたから結婚できなかったのだ、と。
だから、もしかしたら独りになってしまった私を心配して……そのせいで妹が成仏できないのではないかと……私はそう考えたのです」

「成る程、そうですか」

所長はそう呟いて両手を組むと、何かをじっと考え込むように目を瞑った。
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