狐の眠り姫

「レイ。」
葉の微かに震えた声に、漫画を読むのを中断した。
「私、レイのこと、好き。」
そう彼女にいわれて、俺は一瞬時が止まるのを感じた。
「なんだよ、突然。」動揺を押し殺してやっとのことで声を絞り出す。
彼女はまっすぐに俺の目を見つめ「私、本気だよ。」と静かに告げた。
…彼女は知らないのだ。
俺が君に何をしたのか。
思わず、瞳から目をそらした。
もう葉の顔が見れない。
俺も好きだと言ってしまいそうで。
何も言えない。
しばらく沈黙が続いたが、それを壊したのは彼女だった。
「冗談だよ!じゃ、また明日ね。」と不自然に明るい声で葉は言うと、あっという間にいなくなってしまった。
自己嫌悪する。
もっと他に何かいえただろうに。
結局自分の都合で彼女を傷つけてしまった。
…最悪だ。
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