色、色々[短編集]
◇
昨日、一緒に作ったチョコを家族に食べてもらったら好評だったのだと、愛美が嬉しそうに報告してきた。
今日も学校帰りにあたしの家で作ることになっている。これでうまく行けば、愛美はひとりに作るんだと意気込んでいた。もちろんそれはあたしとしても嬉しいことだ。
「今年はどんなチョコにするわけ?」
ふたりで向かい合って、今年のチョコレートのレシピを考えていると、ひょこっと優(まさる)が覗き込んできた。
「だ、だめ! 秘密!」
「愛美に聞いてねえよ。どーせ今年も水華のレシピだろ?」
優の言葉に、愛美がぷっくりと頬を膨らませて「作るのはわたしなんだからー」と文句を言う。それを見て優は「ごめんごめん」と愛美が可愛くて仕方ない、と言いたげに目を細めながら頭をなでた。
なにを目の前でいちゃついでるんだか……。
愛美と優は付き合って今年で三年目だ。
正確には今度のバレンタインで三年目を迎える。
中学から、ふたりを見ているけれど、ずっと仲がいい。愛美は片思いしている頃からずっと優が好きな気持ちを表情に出していて未だに不満を聞いたことはない。
優も優で、付き合った頃から変わらず愛美を大事にしているのがわかる。
誰もが羨むカップルというのは、このふたりのような関係なのだろう。おまけに優も黒髪短髪で、ずっと野球部のエースという爽やか好青年なのだから。
「水華は本当に料理がうまいもんなあー。レシピも考えたりすげーよ。中学の時みたいに学校になんか作ってくりゃいいのに。昔はよく作ってクラスに配ってたよな」
「そうだよね。高校に入ってから全然持ってこないよね」
「面倒くさいんだもの。あの時はお菓子作りにハマっていただけ」
頬杖をつきながら答えると、優は「もったいないなあ」と呟いた。
それが、昨日の名前も知らないミルクチョコレートの男の子を思い出させる。
別に、あの時期ハマっていたから作っていたわけじゃない。あの時期は目的があっただけで、今はその理由がないだけ。
あの頃のように毎日お菓子を作ろうとは思えないし、作ったところで無駄に心が沈むのは目に見えている。
もちろん、作ったって、もう学校に持ち込むようなことはしないだろう。
「水華もそろそろ彼氏でも作ればいいのに」
「ねー、わたしもそう思う!」
お前が言うな、と思いながら苦笑を見せる。
「料理も出来て、いいやつなんだから彼氏くらいすぐできるだろ」
そう言っても、あんたが選んだのは料理の出来ない愛美じゃないか。
「中学からこうして一緒にいるのは、水華が良い奴だからだよなあ」
「ほんっと、調子がいいんだから。愛美の友達だからでしょ?」
「愛美とオレに協力してくれたのは水華だろー」
まあ、それは確かにそのとおりだ。
そもそも、優と愛美が仲良くなったのもあたしがきっかけだった。
愛美はとは中学一年の時に同じクラスだった。二年でクラスは別れたけれど、人懐っこい愛美とはずっと仲よくしていた。
二年に同じクラスになった優が教科書を忘れたと言って、あたしが愛美に借りたことがふたりの出逢いのはず。
そのときにお互い気になり始め、二年のバレンタインに告白して今に至る。
愛美が告白するのだと言った時に、チョコレートを一緒に作ったのはあたしだ。まさしくあたしがいなければふたりは出会ってなかった、かもしれない。
まあ、そんなのは結果論で、結局あたしがなにかしてもしてなくても、付き合ってたんじゃないかなあ、とも思う。