色、色々[短編集]
・
クリスマスに心踊っていたのは高校生までだ。いや、踊っていいのは高校生までだ。
そもそもクリスマスとはなんなのか。いい子にしていた子供にサンタクロース(いや、実際は両親なのだけれど)がほしいものをプレゼントしてくれる日なんじゃないの?
海外ではどうかは知らないけれど、ここ日本ではそういう日。
家族でテーブルを囲み、いつもは食べない豪華なご飯と、可愛らしいクリスマスケーキ。そしてサンタクロースが枕元にプレゼントをくれる。
それがクリスマスの本来のあり方だ。
少なくとも私はそう思っている。
ところがどうだ。
二ヶ月も前から街中ではクリスマスソングが流れ、アクセサリーや化粧品にはクリスマス限定商品が並び、クリスマスディナーの案内。
まるでカップルのためのイベント。プレゼント交換に、見栄を張って自分に見合わないレベルの豪華なディナーに飲み慣れないシャンパンやワイン。
甘ったるいデザートに、締めは夜景を見つめながらのセックス。
なんってしょーもないイベントか。
なにがおめでたいのか。おめでたいのはお前らの頭の方だ。
——なんて、思っていた。
この際すべての女性に、男性に、カップルに、サンタクロースにだって土下座しよう。
ただの妬みでした。
大学に入ってからクリスマスには縁がなかった。ある意味、縁がありすぎたのかもしれない。
大学4年間、百貨店のケーキ屋さんで販売の仕事をしていた。つまりクリスマスは連日終日出勤。バイト中に常にかかっているクリスマスソングは一生分聞いてしまったせいで、今耳に入っても当時のことを思い出してげんなりする。
彼氏がいたこともあるけれど、クリスマスの思い出はない。手をつないでイルミネーションを見たこともないし、セックスをしたこともない。
大学卒業後は小さな広告代理店の営業事務に就いて、毎日残業続きだ。クリスマスだからって変わりない。前日の23日が休みのせいで、平日よりも忙しいくらいだ。
1週間後の年末年始の影響もあって、仕事は山盛り。
クライアントがクリスマスから年始まで長期休暇だったとしても、放り込まれた仕事量は平日の2割り増し。
そんなこんなで7年。
仕事を理由に彼氏に振られること1回。クリスマスを理由に浮気されること2回。
しかし、しかしだ。
「お疲れさまですー!」
時間は6時半。誰より早く席を立って、今までで一番いい笑顔でまだ仕事をする仲間たちに手を挙げた。
頑張り給え、後輩たちよ。
舌打ちなんて今の私にはむしろ快感だ。
「お疲れ様ですー。素敵なクリスマスを」
「お疲れ。素敵かどうかはわかんないけど、ね」
「大丈夫ですよー聖夜の奇跡がありますから」
3歳年下の後輩が仕事をしながら私に言う。
相手が相手だけに聖夜の奇跡、なんてものは期待するだけ無駄だと思う。数年ぶりにクリスマスイブを満喫しようとしていることがすでに奇跡なんじゃないだろうか。
頑張ってね、と最後に声をかけて事務所をあとにした。
生まれて29年目にしてやっと、彼氏と過ごすクリスマスイブというイベントを満喫するってわけだ。1ヶ月以上も前から社内にもクライアントにも定時であがります! と宣言していた甲斐があった。
加えて7年めにもなれば小さな会社の、しかも女性となればそこそこ古株。わがままが通るようになったことも、今日定時退勤できた理由のひとつだろう。