色、色々[短編集]

「なんだよ、急に。友達と飲みに行ったのが気に入らねえのかよ。お前だってほぼ毎週友達とやらと飲み行ってんじゃねえか」
「女友達と飲んでなにが悪いのよ、勝手でしょ」
「毎週べろべろに酔ってみっともねえんだよ。そろそろ落ち着けよお前こそ。去年は確かに俺が悪かったけど、あれから心入れ替えてまじめにやってるだろ」
「落ち着け? どの口がそれを言うわけ?」

 どうやって落ち着けっていうの。
 結婚してない女が毎週気晴らしに飲んでなにが悪いの。

「だったらあんたもそろそろ落ち着いた思考に至ってほしいわよ」
「どういうことだよ」
「もう三十路よ、三十路。来年のクリスマスには私も和也も三十路。三十路の独身でまたこうしてばかみたいなクリスマスを過ごそうっていうの? 私だって落ち着きたいわよ」

 20代最後のクリスマス。
 いろいろ崖っぷち、なんだと自分で思う。
 結婚を考えないわけじゃない。結婚してないからこそこうして遊び呆けることもできるし、仕事を頑張ることができる。その生活が嫌だとは思わない。

 けれど、ふと未来を想像したときに、真っ暗な闇の中に放り出されたような気分になるんだ。

 ああ、私はいつまで、このままなんだろうか、と。

 浮気前科持ちの彼氏は、未だに結婚のケの字も出しはしない。悔しいから私だって口にしたくない。
 けれど子供を産みたいと思う。となるとそろそろ年齢的には結婚したほうがいいのだ。

 私と同じような未婚の女の子もいる。
 けれど、私と同い年ですでに小学生の子供がいる子だっている。

 クリスマスを純粋に楽しむような年ではない。家族でテーブルを囲み、クリスマスを過ごしている友達もいるのだ。
 彼氏からのご褒美のような一夜にすべてが満たされたような気持ちになって、幸せに浸れるような年じゃないんだこっちは。

 男だからわかんないのかもしれないけど。

 10代、20代前半に憧れた夢は、この歳になると夢物語でしかない。
現実的になってしまうのだ。聖夜の奇跡なんて糞食らえ。

「こんなところで何万円も使うよりも、同じ金額でいいから指輪でも買ってきて結婚しようとか言えないのあんたは」
「そういうところがバカなんだよお前は。ほんっと空気読めねえよな。鈍感だし、救いようねえよ」
「あんたに救われなくても結構よ。思い通りに行かないからって人のせいにしないでよ」
「お前こそ、人に文句ばっかり言わずに、素直に受け入れることもすればいいんじゃねえの?」
「和也のほうこそもう少し大人になったらどうなの。わがままで自分勝手で子供みたい」
「お前だって、去年、大学の時の男友達と飲みに行ったくせによくもまあ俺のことだけ責められるよな」
「……なんで知ってるの。っていうかアレはただ飲んだだけだし。誰かと違ってセックスしてないし」
「やってなきゃいいのかよ。お前が昔あいつに惚れてたって俺知ってるんだけど?」
「今は違うんだから関係無いでしょ? 問題すり替えてずるいよねホント」
「だから女ってヤダヤダ。お前と一緒になったらことあるごとにこの話題になるわけ?」
「浮気した男がなに被害者ぶってんのよ。土下座して別れないでって言ったのもあんたでしょうが」
「“私も一緒にいたい”って可愛く泣いてたよなーお前も」
「うーわ、腹立つ。じゃあ今訂正する、一緒にいたくないです、今、この瞬間も」
「俺だって同じ気持だよ、こんな料理好きじゃねえし」
「ばかじゃないの」
「お前だろ」

 夜景は私達に不釣合いで、たくさん並べられたナイフもフォークも意味がわからない。
 緊張と動揺と不満で味は全部すっからかんの料理みたいだし。クリスマスだからってこんなところで美味しくもない料理を食べてるなんて、時間もお金も無駄でしかない。

 ただの罵倒の時間じゃないか。
 あーもう帰りたい。
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