色、色々[短編集]



「煙草もうやめるから、ここにこない」


行為が終わった後に、私はそう告げた。出来るだけ高谷の方は見ないように。


「なんで?」


何が“何で”なんだろうか。
煙草をやめることに関して?それとも――……ここに来ないことに関して?
どっちにしても、聞かれたって何も答えられないし、何を聞きたいのか。

だけどそんな焦った様子もない高谷を見ていると、我慢している気持ちがあふれ出す。
涙が――ぽろぽろと。


「美弥?」


泣きたくなかった。泣きたくなかった。
別に悲しい訳じゃない。むなしいだけ。

会えないことも抱き合えないことも悲しい訳じゃない。

ただ高谷にとって私は本当に――……意味のない、煙草のように害もない無意味な存在だったのかと想うと、むなしい。


「美弥?」


呼ばないで、私の名前を呼ばないで。
優しいあんたの声でもう、傷付きたくない。


「美弥もしかして――……俺のこと好きなんじゃないの?」


ゆっくりと立ち上がったのか、いつの間にか目の前にいる高谷が私を見て告げた。
馬鹿じゃないの。


「――今更、気付いたの?」


ホントはずっと欲してた。
やめたいけど、やめたくなかったからやめなかっただけ。

煙草も関係も。だけど認めてしまったら抜け出せなくなるでしょう。依存してしまうでしょう?

私の言葉に、高谷は吹き出したように笑って、そしてまた私の顔を包み込んだ。



そして落ちてくる煙草味のキス。
いつもよりも――すこし苦くない。そう感じるのは何でかな。
高谷の顔が――嬉しそうだから?

癖になる。美味しくないのにやめられない。やめられないのは私だったの?それともあんた?

ただ分かるのは、二人してやめられないのは煙草。


「俺だって下心なしに毎日ここで美弥を待つと思う?」


苦い煙草が癖になる。高谷のキスと一緒。癖になるのは高谷と高谷のキス。

これからは、終わってすぐに煙草は吸わないでね?名前を呼んで抱きしめて。


でも――……たまになら許してあげる。

甘い煙草。
これからの私とあなたの甘い甘い煙草味の癖になるキス。



End
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