色、色々[短編集]
学校の屋上から、空を見上げるのが私の日課だった。
何をするわけでもない、ただ空を見上げる時間。
夏休み、学校がない日も私は毎日変わらず屋上に来て、勉強するつもりでもってきた教科書を開きながらもただ空を眺めていた。
家にいてもいいんだけど……狭苦しく感じて、ついつい制服を着て学校に来てしまう。
そんなに楽しい場所でもないのに。
「くあっ」
大きなあくびをして、涙でぼやけた視界の中には、水色だけが映る。潤んだ瞳に映されたそれは、まるで水みたいだ。
じりじりと肌が焦げ付くように感じるものの、そのまま、大の字になって空を仰ぐ。
目をつむると夏休みの間もクラブ活動に精を出す生徒たちの声が聞こえてくる。
ブブ……と鞄の中の携帯電話が振動を起こすのを感じて、寝転んだまま手だけを頭上に伸ばして鞄を引っ張った。中にある携帯電話を急ぐこともなく探る。
どうせ迷惑メールか親からの連絡かどっちかだ。
振動が収まった頃に手に携帯電話があたって取り出すと、画面には案の定母親からのメール。
『帰りに牛乳買ってきて』
そのメールを確認して、『うん』とだけの短いメールを返した。
「めんどくさ」
そんな私のつぶやきは、メールの相手には聞こえない。
何て便利なのだろう。
みんなが依存症になるのも致し方ないのかも知れない。……とはいえ、私の使用頻度は一日に数分にも満たないものだと思う。
この携帯電話はもう二年以上も変えていない、今では少し型の古いもので、たいした機能もそんなにない。
メールと、電話。それだけに近い。
でも私にはそれで十分。
携帯電話の中の電話帳には5件ほどしか登録されてないし、それも殆どが家族だ。
メールだってこんな親からの用事でしか使わない。
クラスの女の子たちのようではなく、すっからかんな携帯電話。
持たない方が気が楽なんじゃないかと思うほどに。
「あー宿題やらなくちゃー……」
もうあと二週間足らずで夏休みも終わる。なのに宿題は半分もできていない。
学校が始まったらみんなに……貸さなきゃいけないのにな……。
そう思っているのに頭も手もなかなか動かない。
別に約束したわけじゃない。だけど貸すことになるのはわかりきっている。いつものことだから。
夏休みも、毎日の宿題も、掃除も、日直も。
『私』という存在を貸さなきゃならないんだ。