色、色々[短編集]
何だってこんなにも飲んでしまったのだろうか。
酒の飲み過ぎもあるだろうけれど、多分煙草の吸いすぎも原因の1つだろう。現に今日は一本も吸える気分じゃない。
電車の中で目をつむって揺れに身を任せて過ごしながらぼんやりと考えた。この揺れに抵抗でもしてしまえば一気に倒れそう。
――小百合はいつもしっかりしているから。
そんな声が聞こえる。
もう聞きたくもないそんなうっとうしいだけの言葉が。
しっかりしている自覚はない。仕事だって適度に手を抜いているし、帰りが遅いからって死ぬ気で働いているのかと言われるとそうでもない。
仕事があればもちろんするけれど……。だけどそんなのみんなだってそうでしょう。
帰宅時間が日付を回ることもそんなの日常茶飯事で、それが辛いとは思うけれど苦痛に思う程毎日必死なわけでもない。
会社の空気はいいし、関係だって良好だ。
社長にはお世話になっているからこそ私に出来ることはやってあげたいと思うのだっておかしな事ではないでしょう?
「あの……大丈夫ですか?」
意識が飛んでしまいそうな私に、光にも似た声が響いた。
何も言わずに聞き覚えのない声の方をうっすらを目を開けて見つめると、声と同じで身に覚えのない男性が傍に立っている。
スーツをびしっと決めていて、今のだらけた自分とは別世界の人物のように見えた。
誰ですか?と聞いてしまいそうな口を、慌てて「大丈夫です」に変えて軽く頭を下げる。
声を掛けられるほどに死にそうな自分を恥ずかしく思いながら目を閉じずに今度は窓の外を眺めた。
自分の事がこんなにも嫌になるのは久々すぎて、どうやってこの感情を処理したらいいのかわからないんだ。
――「小百合、珍しいね」
昨日急に呼び出した友達にそんなことを言われながらお酒を飲んだ。
毎日遅い時間まで働く私から友人を誘うのは久々だ。
金曜日にまだ早い時間に終われるのも珍しいし、終われたところで家に帰ってすることはたくさんある。
料理を作らないとならないし、お風呂に入らないといけないし、洗い物もしなきゃいけない。毎日やることは山積みだ。
――「たまにはね」
だけどたまにくらいは羽目を外して遊びたいんだ。
そんな自分にちょっとしたご褒美だと思えば良い。