色、色々[短編集]

電車には、私と、若いカップル、と言っても私よりも歳は上だろうけど。あとはおじさんと、おじいさんと、若い、同い年くらいの男。

見える範囲ではこのくらい。
カップルは、仲良さそうにイチャイチャして、今の私には、癇に触る。

私が彼氏と旅行してたら別だけど、一応傷心旅行みたいなものなんだから、見せ付けないで欲しいわ。
おじさんとおじいさんは……どうみても普通。何も思うことがないくらい普通。

後一人の男の子は……携帯片手に、音楽を聞いてる。

長い髪に、ニットを深くかぶって、黒っぽい服装に、白いラインの入ったブーツがよく似合う。センスがいいのか、体格がいいのか……。

顔は格好いいと言うわけではないのに、もてそうに感じるのは、雰囲気のせいだろう。無精髭ですら色っぽい。私の好みであることには違いない。

いい男が一人で田舎に向かう電車に、か。

いい女、と自分で言うのも申し訳ないくらいの女の私だけど、私も一人で田舎に行くんだから、人のこと、とやかくは言えないわね。

色々あるんでしょうね、彼にも……私みたいに?

何となく目を離せずに彼を見ていると、携帯が鳴ったのかぱかっと慌てたように携帯を開いて泣きそうな顔になった。

一言、二言、何を話しているのかは聞こえないけれど、間違いなく少しずつ…今にも泣き出してしまうのではないかと思う程。

振られた、のかな?

男の子の泣きそうな顔なんて、初めて見た。何も知らないのに、見てるだけで、私まで泣きたくなるなんて。

胸が締め付けられて、苦しい。笑ったほうがきっとよく似合うとおもうのに…見ていられない、そう感じて視線を慌てて窓にやった。


あんないい男の子をふるなんて、きっとかわいい女の子なんだろう。


痛む胸と私まで零れてしまいそうな瞳。窓に微かに映る自分の顔を見てきゅっと唇を噛んだ。

彼を見てると1ヶ月前の自分を思い出してしまうみたいだ。

別に、未練があるわけじゃない。
あるわけじゃないけど、悲しい気持ちをバイトばかりしてごまかしていたのも事実。忘れたいのに、電車のあんたを見てると自分とダブる。


別に嫌いになった訳じゃない。だからといって私だっておそらく……彼との関係にマンネリ感を抱いていた。恋かどうかも分からない程に。

だけど告げられた彼の言葉に、鈍器で頭を思い切り殴られたような……そんなショックを受けた。

なんて自分勝手なんだろうか。
ならない携帯電話はもう鞄の奥底にあるけれど……あんな風に手に携帯を握りしめて、彼の声を待って過ごした日々もあった。

毎日連絡をしていたはずの大事な大事な、私たちを繋いでくれた携帯電話が、ただの邪魔な塊になったあの日。


もう、さすがに吹っ切れたと思ったし、多分吹っ切れてはいるけれど……。
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