色、色々[短編集]
彼を見ているとあの頃の自分を思い出してしまう。
駅に着くと、仲良くカップルが降りていった。しっかりと手を繋いで。目障りな二人が降りて嬉しいけど、電車の中がまた少なくなってちょっと寂しさを感じる。
男の子は……そう思って少しあたりを見渡すとさっきの位置よりも少し後ろの席に移動していたけれど確かに乗っていた。降りる気配もない。
さっきの電話から、こまめに携帯電話を開いてはメールをチェックし、返事をしているように見える。
ただケンカしただけなのかそれともただの友達か。私には関係ないけれど……そうであればいいのに、と願う。
「どんなけお節介」
自分で苦笑が漏れた。
悲しく見えたはずだけど、気のせいだったのかもしれない。だとしたら失礼な思い込みじゃないか。
電車がゆっくりと動き出すと、何も考えずに窓の外をながめた。
窓に微かに映る自分の眠そうな顔と、席を移動した彼の様子が映り出される。気になって眠れないじゃない。
電話が鳴ったのか、男の子は席を立って出ていって、終わったら戻ってきて。また、電話が鳴って出ていって、の繰り返し。
戻ってくる度に、泣きそうになっている顔を見るたびに、さっきの彼は見間違いじゃなかったんだと私の胸を締め付けた。
……何があったの?
気になるけど、初めて会った、ただ電車で一緒になった私が話しかけれるはずもない。
トイレに席を立つ、男の子のそばを通りすぎるけど彼はメールに夢中なのか、私なんかに気にも留めずに下を向いたまま。
それもそうか。何をがっかりしてるんだか……。
手を洗って、なんとなく、化粧をチェックしてドアをあける。
「もう、無理なんだ!信じられないから、もう、付き合えない……もう、かけてこないでくれ」
男の子の、叫び声。大きな声じゃないのに、叫んでいるように胸に響いた。
私の存在に気付いたのか、彼がばっと顔を上げて私と視線がぶつかる。
見てはいけないものを、見たんだと、思った。目から多分一滴くらいの涙がこぼれ落ちていて、何も言葉が出ない。
ない、てる。
まだ電話がつながっているように感じて、何も出来ずにただ視線を外しながら軽く会釈だけして席に戻る。
がたがたと揺れる電車と同じようにドキドキと、脈打つ胸を押さえながら。
見てはいけないものだったけど、だからだろうか…今まで見た中で、一番純粋に、きれいに思った。
だからこそ高鳴る胸。
それだけのはず。
電話が終わったんだろう男の子が、席に戻ってきて私の方を見たけど、思わず目線を逸らした。
目が合ったところでどんな表情をしたらいいのかわからない。
笑うわけにもいかないし、親身に人生相談でも出来る性格でもないし。そんなもの私だったらされたくないしな。