色、色々[短編集]
好き、なんだろうな、と思う。
男の子は、まだ、別れた彼女のことを。
何があったかわからないけど、信じられない行為をされて、付き合えないけど、それを伝えることも辛いほど、まだ好きなんだろうな。
あれほど、あんないい男の子に好かれる彼女を、うらやましいと思う。
私なんか、単に、ちょっと会えなくなっただけで『好きな子ができた』と、あっさり振られたんだから。まああっさりかどうかはわからないけれど。
好きだけど付き合えないなんてばかげた台詞は聞いたからもう十分か。
あんな風に、思われてみたいもんだ。
そしたら私なら絶対自分から離れないのに。こんどは……もう見失わないのに。信用失うようなことしないのに。
信用を失ってまで、例え付き合えないという結果であっても、あんなに思われるなんて、うらやましい彼女。
窓に映る景色は相変わらず緑だけど、確実に走っていてもうすぐ駅に着くだろう。ついたら最後の乗り換えだ。
荷物を担いで、出口に向かうと男の子も鞄を肩にかけて私に続くように降りてきた。それだけで何を緊張してるんだか…
やっぱり、見てしまった、見られてしまった、私たちには微妙な雰囲気が感じられる。私が彼の立場なら相当気まずいしね。
でも、ここでさよなら。そう呟くようにホームに降り立ち、そのまま目の前のベンチにどすっと腰を下ろした。
男の子は私の前を通り過ぎて…そして少し離れたベンチの前で脚を止める。荷物を地面に投げ捨てるように置いて、椅子に座った。
…まだ、一緒?何となく恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ち。ちらっと視線だけを彼の方に向ける。こっちを見ようとはしないけれど彼の横顔になんだか笑みがこぼれて慌てて口を閉じた。
電車が来るまではまだ時間がある。
真っ青な空のした、ちょっと汗ばむくらいで、気持ちいい風の吹く、田舎の駅。
気まずい雰囲気が、ちょっとマシに思えた。
30分くらいして、最後の電車に乗り込んだ。一両しかない電車だからか、席に着いても互いの位置は確認できる。
声をかけたら、どうなるだろうか。
でもそんな勇気はない。
声を掛けて何を話すんだ……怪しまれるのが目に見える。
ただ、黙って、電車のゆれを感じながら心地いい時間が流れるのを感じた。
さっきまでは、もう充分に見飽きた山の景色だったのに今は違って見えるのは何でだろう。
二人以外は、誰もいない車両。
窓からは、気持ちいい風。
ずっと、この時間ならいいのに。