色、色々[短編集]
一ヶ月ぶりに会った明里は、今までと何ら変わりなく笑っていた。季節は春で、今日はぬくさを感じた日だった。昨日まで寒かったのが嘘みたいに思えるほどに。
いつものようにちゃんと化粧をした整った顔を、めいっぱいに口を開けて笑う明里。
話のきっかけは明里が恋人と別れたことと、
――そして私の結婚のお知らせの話だ。
「彬、保仁くんと、結婚するの?」
幾度か会ったことのある明里は、保仁、彼氏の名前をすんなりと口にした。
彼と付き合ってもう7年になる。
そろそろ年も年だし結婚の話が出たのは先週のこと。
その話を一番に私は明里に報告したかったんだ。
私の親友として。
私の一番の女友達として。
その言葉を吐き出すのに少しの勇気が必要だったのは、私はやっぱり、あかりの気持ちに気づいていたんだろう。
「私、ずっと彬が好きだったの…」
うつむいて顔は見えないのに、ぽつりぽつりと机に落ちる雫で明里が泣いていることは分かる。
いつから――私を?
女である私を…いつから好きでいつから苦しんでいたんだろう。
今まで何度か女の子に告白されたことはあった。見かけが男みたいな訳じゃないのに。なのに何でだろうかと思いながらも、私は一人の人としてその人に対してお断りを言ってきたはずなのに。
だけど。
今。
私は明里に掛ける言葉が見つからない。
「今までそんな風に想ったことなくて……女の子を好きになるなんて今でも信じられないけど――だけど……。
いやなの。彬が誰かと、他の男と一緒にいるなんて――嫌だ」
明里は一人の人。私はそんな風に思えない。
明里は女の子で。女の子だからこそ私は明里が「友達」として大好きで。
男友達に告白されることなんかよりも、もっともっと苦しいんだ。
好きな人と両思いになれないのに傍に居ることがどんなに辛いか私だって経験がある。
それでもいいのだと思ってくれたらいいけれど、だけど正直私が逆の立場であれば…私のことを好きな人と今まで通りに接するなんて無理だ。
優しくすることが苦しいから。
何も出来ない自分を知っているから。