色、色々[短編集]
「何でキスするの?」
わずかに離れた唇と唇の隙間から声を出した。
私の声に、大和は私の目を見て、そして微笑む。いや、微笑むなんて表現は似合わない。
人を見下したような、人を馬鹿にしたような、見下ろす目つきに、片方だけあげた口元。
「誰かに、求められるのは嬉しいだろ?」
「馬鹿じゃないの?」
お返しに今度は私が馬鹿にして笑ってあげる。
「何で?誰かに愛されているっていいじゃん……俺の事で馬鹿みたいに浮かれたり怒ったりするの見てたら……必要とされてるみたいだろ?」
「愛に飢えてるの?」
「愛に、溺れてるんだよ」
なるほどね。
でもキスした理由にはなってないわよ。
「私が好きなの?」
「俺に溺れさせてみたいくらいには、ね」
上等じゃない。話をしながらも、大和の唇は頬や耳、首筋へと降りて行く。私はそれを止めもしないで、受け入れていく。
きっと、夏の暑さに溺れているんだわ。
大和の体重を少しずつ感じて、私の体が少しずつ傾いて行く。
気がつけばわずかに身につけていた衣服は床に投げられていて、視界に映るのは思った以上に筋肉質な、少し焼けた大和の胸元。
そして汗……私の顔に滴り落ちてくる汗にたまに顔を歪ませる。
暑い空間の中さらに暑さを感じる行為を繰り返す。
暑さに溺れながら、力が入らないはずの体は、一定のリズムに応じて跳ね上がる。
まるでもがくように。
まるで溺れるように。
汗と汗が混ざり合って絡み合う。大和の体にぬめりを感じてつかもうと思っても上手くつかめない。暑い熱気が体の周りにへばりついてわずかな思考も奪って行く。
繋がる体と絡み付く二人の汗。
暑さのせいか、それとも突かれる快感のせいなのか、口から聞いた事もないような声が溢れる。
汗がにじんで、ぼやけて見えない視界。
でも大和を感じる体。
汗に混じって熱気も私に絡み付く。
溺れる
溺れる
生温い空間に溺れて理性が流れて、残るのは快楽。
ぬるい空気の中身をまかせて溺れるように、泳ぐ。