色、色々[短編集]
本当に、こうなるなんて思っていなかった。まさか、私が家族を守るために働くなんて。
結婚して会社を辞めるつもりはなかったから、共働きになって、子供が出来て、保育園に預けてまた仕事でもするんだろうなって思っていた。
子供がかわいかったらそのまま専業主婦という可能性もあるだろうな、と。
達也は私や子供のために働いて、私はそんな達也を支えるのかなって。そんなのも素敵だな。長く付き合ってきたから、そんな日々は容易に想像出来たし、それも幸せだろうと思っていた。
ただ、まだ遊びたかったのも事実。
子供が出来てからお酒も煙草もやめて、仕事が終われば直帰。
楽しくない日々ではないけれど、何かか物足りない。
そんなこと考える事が、母として妻として、不甲斐ない。
「あ、いたいた!大久保さーん」
「はいー?」
休憩室にひょこっと顔を覗かせた同僚が私を呼びつける。
何事かと箸を置いて彼の元に向かうと、一枚の書類を渡された。
「ここ、ちょっとよくわかんないんだけど」
「あー、これ、他の所に記載してるの。連動してるから」
企画書を見て首を傾げる彼に、「すぐ行く」と返してからお弁当を再び閉じる。
殆ど食べ終わっていたから特に問題もない。ゆっくりする時間が減っただけ。
「ごめん、先にいくわ」
「はあい」
先月新たな企画チームに配属されて、今回の私はチーフになった。
コンペがあるから手は抜けない。しかも初めてのチーフで失敗なんかしたくない。
毎日終電ギリギリまで企画書と向き合って、外注のデザイナーさんと打ち合わせ。
「大久保さんってほんとよく頑張るよなー」
お弁当片手に一緒に席に戻っていると、同僚が感心したように言葉を発する。
「何が?」
「大久保さんの旦那さんって専業主夫だったよね。俺も奥さんと子供いるけど、俺と大久保さん同じ立場じゃん。家族守ってるんだなーって」
「そうなる、のかなー」
なんだかしっくりこない。