色、色々[短編集]

 ねえ、知ってた?

“今日はどのキスがいいかな”って悩みながら茶葉を選んでるの。

 ・

 ピーッとケトルが鳴り響いて腰を上げた。
 隣の彼はそんな事気にもしないでゲーム画面を見つめたまま操作を続ける。

 弱火にして、ポットにお湯を少し注いで温まるのを待つ間、今日は何にしようかな、と12種類の紅茶を並べて腕を組んだ。

 ハロッズのアールグレイもいいけれど、今日はちょっと上品なフォートナム&メイソンのロイヤルブレンドもいいな。でもハロッズのNo.14も捨てがたい。フレーバーティもいいなぁ。ダージリンもウバも、セイロンも……。

 いろんな種類を楽しむのが好き。
 だけどここまであると毎回悩んでしまう。

 昨日はフォションのアフタヌーンティだったっけ。
 それを飲んだ彼は、確かアールグレイだと言った。じゃあ今日は……。

 よし、と小さく呟いて、決めた缶を手にして缶の蓋を開けると、茶葉の香りが舞う。
 深く吸い込んで目を閉じる。
 ああ、やっぱりいい匂い。この香りが一番好き。そして、彼に良く似合う。

 横目で彼を見れば相変わらずゲームに夢中。何の紅茶を選んだかは見てないだろう。
 ポットのお湯を捨てて、リーフをティースプーン4杯。そして勢いよくお湯を注いだ。
 ポットの中で茶葉がふわふわと落ちたり浮いたり。その様子を眺めながらマグカップに角砂糖を1つずつ。
 三分待ってマグカップに注いで出来上がり。

「はい」
「あ、ありがと」

 紅茶を机に置くと、タイミングが良かったのか、彼が画面から目を逸らしそのままマグカップを手にした。
 香りを嗅いで、口に含む。味わうように飲み込んでから「うーん」と呟いた。

「今日は何だと思う?」
「これは……アールグレイ?」
「……ブー、はいキス」

 彼が今日の紅茶を当てだしたのはいつから分からない。
 紅茶が好きなクセにいっつも当てられないのが面白くて、いつからか間違ったらキスしてもらうことにした。

 目を瞑って彼のキスを待つ私の唇に、「えー、また違うの?」と言いながら紅茶で暖かくなった彼のぬくもりが重なる。

 ふわりと香る、紅茶のニオイ。
 ほんのりと口の中に広がる紅茶。

 ああ、コレが好き。
 彼のキスには紅茶が良く似合う。
 紅茶はより一層美味しくなって、彼のキスまで美味しくなる。

 このキスが、溜まらなく、幸せな気分にさせてくれる。


「――で、今日の紅茶はなんだったの?」
「……秘密」

 

 今日は、アールグレイのキス。
 この先も、彼には間違ってもらわなくちゃ、ね。


END
< 77 / 136 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop