色、色々[短編集]
涼太と付き合っていたのは、二年前のこと。
中学三年生の夏に、私たちはお互いの初めての恋人になった。同じクラスになって、隣の席になったことをきっかけに私たちは急速に仲良くなった。
授業中は常に話をしていたし、休み時間もそのまま夢中になってふたりで話し込んでいたこともある。時にそれは放課後まで長引いて、一緒に歩いて帰ったことも。
だから、付き合うのは自然だった。
私もいつしか涼太のことを好きだと認識していたし、涼太も私に好意を抱いていることに気づいていたから、とても自然に付き合いだした。
『つきあおっか』
『いいよ』
こんな短い会話で、好きだと言う単語だってなかったけれど、それを不満にも不安にも思うことなく、私たちは冬までの数ヶ月間を共に恋人として過ごした。一緒に手をつないで帰ったり、缶ジュースを半分こしたり、手をつないで照れてみたり。それが当たり前で、それが恋人という関係の中では全てだと、そう思っていた。
それがどうして、あんなことになってしまったのだろう。それが思春期なのだと思えばそれまでなのかも知れない。その先に待ち受けていることに、欲よりも興味の方が先走ったのだろう。もしくは、夢ばかりを見て、きれいなものだと信じていたのかもしれない。
だから、あんな結果になってしまったんだ。
現実と理想と、欲。この3つを、私たちは知らなかった。
別れてから、私たちは言葉を交わすことはなかった。
付き合っていた頃は『同じクラスだからいつも一緒だね』なんてかわいらしいことを言っていたけれど、別れてしまえば同じクラスであることなんて、面倒くさいことこの上ない。
不自然な程関わりを持たなくなった私たちに、クラスメイトはみんな気づいていただろう。ついでにいえば、付き合っていた時期に丁度高校受験の願書提出があったおかげで、高校まで一緒になってしまったのだから、馬鹿な自分を呪うしかなかった。
けれどこのまま私たちは他人になるのだろうと、そう思っていた。
一年は別のクラスになり、当然一言も言葉を交わすことがなく過ぎた。廊下ですれ違っても、気まずくて目も合わさなかった関係だった。それに心を痛ませることはあったけれど、“まだ好きだ”なんていう思いではなかったと思う。
気まずくて、できれば昔のように話ができたらいいなと思っていただけ。そのくらいには好きだったし、一緒にいて楽しかった。
その間に私は高校で新たな彼氏が出来て、ウワサによると涼太にも彼女が出来たと聞いていた。ああ、これで時期が来れば私たちも笑いあって、あの時は、なんて笑い話に出来る関係になるかもしれないな、と、そんな風に、幼い恋は消えていくはずだった。
冬が、来なければ。