色、色々[短編集]
付き合って四ヶ月ほど経っておとづれた冬の日、その彼氏には『お前は俺のことが好きじゃないだろう』と別れを告げられた。
優しい彼氏だと思っていたのに、別れのセリフは何とも自分勝手。
たかが三回のセックスを拒んだだけだというのに。五ヶ月も付き合ってセックスがしないことがどれだけおかしいことかを延々と話続け、それでも渋る私に『もういいよ』と背を向けた。
悔しさと悲しさの入り交じる涙は、雪の中にぽつりと落ちた。
何度も誘われているのは分かっていたけれど、それに気づかないふりをしたのが悪かったのだろうか。『怖かった』とかなんでもいいから嘘を重ねれば良かったのだろうか。
本音はただ、気持ち悪かっただけなのだけれど。
その後付き合った彼氏は友達の紹介で出会った他校の男の子で、雪ばかりが続く冬の日だった。
前と同じ理由で振られるのは嫌だったから付き合って一週間でセックスをしたけれど、正直苦痛だった。
初めての時は、正直胸が高鳴った。彼は色っぽい人だったし、触れられる大きな手に、体が反応する自分だって分かっていた。その程度は好きだった。けれどそれは始めの一瞬だけで、その後のテンションは右肩下がり。
何を見て学んだのか、やたら嫌らしい下品な言葉を口にして、嫌がる私を見て喜んでいるのだと勘違いするような馬鹿な男だった。Sだと自分で言っていたけれど、あの男はどう見てもMだと思う。
口にはしなかったけれど。無理のある乱暴なセックスは、痛みだけが残るものだった。窓から見える雪を眺めながら痛みに耐えながらゆらゆらと彼から与えられる振動を受け入れていた。
丁度その頃、涼太と付き合っていたという女の子がトイレで振られたのだと泣いている姿に遭遇したっけ。
そんな他人の恋愛に構う暇もなければ余裕もないほど自分の気持ちの戸惑いでいっぱいいっぱいだった。彼氏と会うのも避けるようになり、ひとりで雪の中で過ごすようになったのはその頃だ。
どうしてこうなったのかと一人でぼんやりと雪の中で考え込むだけ。どこかおかしいと。セックスはこんなにも気持ち悪いものだろうか。
例え初めてがあんなにも痛々しいものだったとしても、それと今の感情が結びつかないほど、私はただ、何か違う欲望にとりつかれて、与えられる刺激が違うことに非道く嫌悪感を抱いていた。だって私は、少なくとも欲情していたのだから。では、なにを求めなにを想像し欲情していたのだろう。
そのまま彼氏とは疎遠になり、春が来る前に新しい彼女が出来たというメールだけが届いた。