色、色々[短編集]

「俺もお前も、多分溺れて死ぬんだろうな」


 煙草を咥えながら、そう言って嬉しそうに笑う男がいた。過去形なのは、彼が過去の存在だからだ。遠くの国に行ったとかではなく、この地球上から、世界から、宇宙から、彼は消えた。

 彼の名前は康也という。
 ショートボブの私よりも長く艶やかな黒髪が自慢で、いつも『俺の髪は綺麗だろ』と言って私のパサパサの茶色い髪を弄る男。

 趣味は車とバイク。彼のお気に入りのなんとかとかいう、何年ローンか知らないけれどブラウンのようなブラックのような車は土足厳禁だった。そして、半年前に大型二輪免許とやらを取って新たに何年ローンかでなんとかとかいう単車を買って真冬でも乗っていた。ふたつのローンで毎月金欠に陥っている姿を見るたびに〝こいつはなんて馬鹿なんだろう〟と思っていた。この男はローンをするのが趣味なんじゃないかと思っていた。

 ショートホープを吸っていて、お気に入りのポールスミスのZIPPOをカチンカチンとクソうるさいほど鳴らすのが癖だった。ちなみに私はセブンスターで、私たちは一緒に煙草を吸うたびに、お前の煙草は臭いだのまずいだのと言い合った。喧嘩ではなくじゃれ合いだ。

 今思えばしょうもないことだけれど、当時はとても楽しかった。いや、実際ショートホープはマジで臭いと思っているけれど。

 熱狂的な阪神ファンで、何度か一緒に試合を観に行ったことがある。一緒にいるのが恥ずかしいほどの派手なユニホームを着て応援に精を出していた。おかげで私もにわかファンくらいにはなった。

 いつも友達に囲まれていて、お酒が好きで、友達と毎週のように飲んでいて、明るくて、ムードメーカーで、文句を垂れては笑う人だった。とにかく、よく笑う人だった。

 彼はそんな人だった。

 そんな彼は、私の恋人だった。


 今、私の目の前にある彼の写真は、私の知っている彼。けれど、私の知っている笑顔よりも取り繕った感じがある。黒い額縁の中の彼にはお世辞にも似合うとは言えない花がこの部屋のいたるところに並べられている。そう、つまり、まあ、簡単に言えば、彼は死んだのだ。

 十二月も半分以上が過ぎた、寒い日の、昨日のこと。
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