世界の終末に。
店長が亡くなって、コンビニは僕と奥さんの2人だとやっていけなくなってしまった。
奥さんは、夫を亡くしたことですっかり沈んでしまって、痩せて小さくなってしまった。
それでも、彼女は新しいアルバイトを雇うことをなかなか承知しなかった。
すごく失礼なんだけれども、なんだかそれは僕の母さんが白ちゃんを亡くした後、動物を飼わなかったことに少し似ている気がした。
1人で店番をしている夜、彼女はきっとそこに夫の姿をみていたのだ。 ちょっとお腹のでた、気さくでお調子者の、ずんぐりした…。
まるで、母さんが白ちゃんのお気に入りだったクッションを決して片付けなかったかのように。 きっと母さんもあのとき、少し汚れたクッションの上にうつらうつらと船をこぐ、白ちゃんの姿を見ていたのだ。
それでも、日に日にやつれてゆく奥さんを見ていられなくて、僕はコンビニにくるおばちゃん達に協力してもらって、奥さんを説得して、店先に求人ポスターを出すことを承知してもらった。
こんな田舎のコンビニだから、時給は決して高いとは言えず、面接の希望はなかなか来なかった。
ポスターを出して、ひと月が経った。僕は風邪で2日程アルバイトを休んでいた。
いつもの様に店に入ると、彼女はそこにいた。
ピカピカの制服を着て、ニコニコとそこに立っていたのだ。
彼女は、僕を見るなりにこっと歯を出して笑ってみせた。
白い歯にはかっちりと矯正器がはまっていた。
僕は、今でもこの瞬間をたまに夢にみるのだ。
彼女は、僕が中学生の頃、一度でいいから話してみたいと願い続けてけれど同じクラスになることすら叶わずに卒業を迎えてしまった、河井さんという美しい女の子、の友達によく似ていた。
本人かとも思ったくらいだったが違った。
彼女は名前を山本遥と言って、近くの看護学校に通う学生だった。
背が低くてちょっと信じられないくらいに太っていた。
色白の丸い顔に、メタルフレームのメガネをかけていて、量の多い黒髪を後ろで一つに結わえていた。
目はくりくりとしていて、ぱんぱんのほっぺたはピンク色をしていた。