水曜日、16時20分
道行きはざわめいていた。冬の寒さも少しは和らいだとはいえ、まだ春は遠いようだ。冷たい風、身をすくめた。

芽衣の足取りはいつも軽やかで穏やかだ。いつも見惚れてしまう。

「先輩、かっこいいですよね」

振り返って大きな両目で私を見る。

「そんなこと、ないよ」

つられて笑顔になってしまう。なんか悔しい。

「芽衣は、なんていうか」

「はい?」

小さなその頭をそっと撫ぜる。

「かわいいよね」

「わ、やめてくださ……」

芽衣は恥ずかしがってちらりと周りを見渡した。それでも身をすくめるだけで逃げようとはしない。

なんかほんとに、かわいいかも。

ひとしきり撫ぜて手を離す。

「髪、さらさら」

「えへへ、秘密のリンスです。赤いパッケージの。えっと、コンビニに売ってるやつです」

「秘密にしてないというか自分でわかってないじゃん」

「えっと、だから秘密なんです」

「自分にも秘密になってるよ」

「そう、そうなんです」

「そっか。それでいいんだ……」

それからバス停までの間、お茶の話をした。
< 3 / 7 >

この作品をシェア

pagetop