水曜日、16時20分

空には真っ白な月。

私はそんな夜を一人で出歩いていた。

空気もずいぶん冷たくなってきているようだ。吐き出す息は白く濁って見えた。

町は私とは無関係にざわめいていて、それは久方の明け空を祝福しているようにも、底抜けに冷え込んだ夜を非難しているようにも感じた。

そう、そのときは母と父が喧嘩をして、泣きながら声を張り上げる母をみたくなくて家を出たのだった。

別段仲の悪い夫婦というわけではないとは思う。

いつもは仲良くしているし、喧嘩するときだって私の目とは離れたところでしている。そんな時は私も気づかないフリをして、普通をよそおって彼らに接することにしている。

だからこそ私の前で喧嘩をしているそのとき、どうしていいのか分からなかった。

きっと優しい僕らの、それが愚かさなのだろう。

ざらざら。

ざらざらざらざら。

耳障りな音を聞いて顔をあげた。

見ると学校の先生たち数名がよりそって歩いているところだった。ざらざらと耳障りなのは彼らの声か。

すぐに踵を返す。こんな時間にこんな場所にいるのは教師たちに見つかるのはまずい。

ドキドキしながらその場を離れた。すぐに暗い路地裏で胃の中身を吐き出した。

真っ黒なアスファルトの上に広がる吐瀉物を見ながらさらに喘ぐ。

もう胃の中には何もないのに。

体が勝手に痙攣を繰り返す。

何が気に入らないんだ。

本当に、頭にくる。
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