━ 紅の蝶 ━
喋りながら膝を折り、地にしゃがみ込む男を、少女の視線が捉える。
彼岸花の紅が、膝を折るとよく見える。
良い色をしていた。
くすみなど一つもない、真っ赤な、紅。
「……それは、本心なのかしら。追われているとは、一体、何をした故のこと?」
少女の、恐怖や疑心……ではなく、妙に愉快そうな好奇心の入り混じった瞳が男を離さない。
だが、男はその問いに答えられない。
己ですら、真実を知らないのだから。
男が口を一文字に結び、考えに耽(ふけ)ようとしているところ、少女が首を横に振る。
「……解っているわ。貴方には答えられないのよね。解っているわ。いいのよ。それでいいの。……私の傍に居てくれると申した、その事実だけで十分なのよ」
まるでそれは、狐が仮面を外したような。
手に持っていた彼岸花を地に置いた少女は、恐ろしいほどの色気を放ち、男の頬をしなやかな手つきで撫で下ろす。
途端に力を無くした男が、尻餅を着くように彼岸花の上に座り込む。