━ 紅の蝶 ━


 少女はその足の間に割って入り、男の頬を両手で包み、紅色の唇を男のそれに押し当てる。
 甘美の吐息が漏れ、心臓は狂ったかの如き速度で血を巡らせる。
 呼び覚まされる本能。
 湧き上がる欲望のままに、男の手は少女の着物を乱し始める。
 少女は唇を離し、うっすらと笑みを浮かべ、男を見つめる。

 その表情は、この世のものとは思えない、残酷な程の美しさであり。

「……嗚呼……素敵だわ……。貴方、とても素敵よ……。狂いそうなくらい、素敵な血の香りがするわ……」

 少女の囁きは、あまりにも魅惑的な熱を帯びていた。
 男は少女に押し倒されつつ、血の気の引いて行く自身を感じた。
 そして男は、己の背に触る土の感触に違和感を覚える。
 否、それは土ではなく。

 ひんやりと冷たい、凍えるほどの、紅い、血。





 紅い。






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