━ 紅の蝶 ━
何故気がつかなかったのであろうか。
辺りには、彼岸花に隠れるように、人影が横たわっていたというのに。
何故気がつかなかったのであろうか。
少女の着物が美しい紅色をして居たのは、鮮血を幾度となく吸い込んできたからなのだと。
恐怖、否、絶望すら覚えた思考で男が考えたのは、自分を追っていたもの。
逃げていた、というのは、果たして事実なのであろうか。
追われていた、というのは、果たして事実なのであろうか。
どれも不合理である。
導かれていたのだ。
何を求めて、何かを求めて。
少女の、不自然に紅い唇が、三日月のように弧を描いた。
それすらも、狂ったように、美しく――……
「……ねぇ、貴方は、一体、何人殺したの?」
……――彼岸花が、また、一段と、紅く染まった気がした。