━ 紅の蝶 ━
けれど、ここで逃げるとすると、再び危険に晒されるかもしれないという不安がある。
男は、意を決し、少女へと一歩近づいた。
「お、お譲さん……こんなところで、何をしているんだ?」
ぎこちなく笑みを浮かべる男を、少女はあどけない瞳で見つめ上げる。
十二単のような、彼岸花と同色の美しい着物を身に纏った少女は、色素の薄い肌をしていた。
人形の如く整った顔立ちは、所謂(いわゆる)、美少女と呼ばれる部類に入るものだろう。
歳は十二、と言ったところか。
少女は小さく紅色をした唇をゆっくりと動かし、
「……彼岸花を、摘(つ)んでいたのよ」
か細くも聞き惚れるような美声で、そう呟いた。
確かに、少女の細い手首から繋がる掌(てのひら)、そしてすらりと伸びる指先には、彼岸花の特徴である、今にも折れそうな茎が握られていた。
茎の上には、当然ではあるが、紅いそれが乗っていた。