━ 紅の蝶 ━
「な、なんだ? 答えられるものなら、構わないが……」
「ええ。大丈夫よ。きっと、貴方には答えられる質問だわ」
「それなら、なんでも聞くがいい」
「ありがとう。……そうね。貴方は、何故、ここに居るの?」
少女は、当然のことを聞いたのだろう。
いや、更に言うならば、男が少女に声をかけた時、少女が真っ先に口にしなければならなかったのはこの質問なのだ。
しかしながら、男はこの質問を一番嫌っていた。
何故ならば、男自身にも解らないからである。
もう一度言うが、この男は“何かから逃げて”ここに辿り着いたのだ。
何から逃げていたのか。
そして何故男は逃げなければならなかったのか。
ここに辿り着くまでに、男には謎が多すぎた。
「……すまない。それは、私にも解らない。気がついたら、ここに居た」
男の答えに、少女は「そう」と短い言葉を紡いだ。
それから、己の手の中にある彼岸花を撫でるようにして指を這わす。