━ 紅の蝶 ━


「……いいのよ、それで。きっと、そう言うことなのよ。解らないなら、解らなくていいの。それも、自分なのだから」

 少女は静かに説(と)く。
 つい先程まで、ここに来た理由を――逃げていた理由を――探していた男は、少女の言葉で、その考えを絶った。

 解らないならば、解らなければいい。
 それはきっと、己が知りたくない事実なのだから。

 不思議とそれだけで納得をしてしまった男は、自分の問題から解放され、他のことが目に入るようになったらしく、

「あぁ、そう言えば、お譲さん。君は、こんな時間まで、ここに居て平気なのか?」

 ようやく目の前の少女へと疑問を投げかけた。
 “こんな時間”と曖昧に表現してみたのだが――説明の必要もなさそうではあるが――男は現在の時刻を把握してなどいない。
 ただ、夜だということだけは理解している。
 何故なら、辺りが暗い闇に包まれているからである。
 理由はそれだけだ。
 他に小難しい理屈は必要ないだろう。


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